――厳しさもあった。でもやっぱり、優しい人だった。大切だった煙草の匂いが、むせかえる花の香りに消されてく――
「・・・・・・弥子ちゃん、今、何て・・・。」
「ごめん、ちゃん。2度説明する気力は無いよ。」
そう言った弥子ちゃんの口調は、今までに聞いたことのない、とても冷たいものだった。
そして、ネウロさんも、こんなに落胆されているのを初めて見た。
私は正直、まだ弥子ちゃんの話を理解しきれていなかった。・・・否、理解したくなかった。それを認めてしまえば、私は・・・・・・。
だけど、それは変えようのない現実だった。
今、私の目の前では、大好きな大好きな笹塚さんの葬儀が行われている。
それでも、私は自分自身の目を、今見えている光景を、それを理解しようとする脳を、否定した。
こんなことがあるはずはない。きっと、何かの間違いだ。本当は、笹塚さんは行方不明になっただけで、まだ消息がわかっていないだけじゃないの?
そう思っているのに、周りの警察関係の人たちも涙を流している。
・・・警察の人が真実を知らないわけがない。それじゃあ、やっぱり、笹塚さんは・・・。そんな考えをする頭を思い切り振って、思考を止めた。
・・・頭が痛い。涙が出る。余計に頭が痛くなる・・・。
笹塚さんとは、この間、自分の気持ちを正直に伝えてから、そんなに関わっていなかった。と言うのも、笹塚さんにもネウロさんの正体がばれ、笹塚さんとネウロさんの繋がりが強くなったからだ。・・・どうやら、笹塚さんが上手く話して、ネウロさんが私を危険な事件に関わらせないようしていたらしい。
とは言え、あまりに私を呼ばない日が続くと怪しまれると考えていらっしゃったのか、小さな事件には関わらせてもらっていた。ただ、事件性が低い分、笹塚さんの時間に余裕が出来、笹塚さんと話せる機会が少しはあった。それで、私は満足していた。
「無茶はしてはいけない」という笹塚さんとの約束を守りつつ、自分で決めた「事件の早期解決の手伝い」をこなし、笹塚さんと一緒に過ごせる時間がある。
何も、不自由など無かった。これ以上、求めはしなかった。
それなのに・・・。それすらも奪われてしまった。もう・・・・・・・・・。
それから、弥子ちゃんから“呼び出される”ことは無くなった。
でも、何かしなくてはならない。そう思った。・・・と言うか、何かをして、別のことを考えていないと、私自身がどうかしてしまいそうだった。
その日から、私は今までやったことのないぐらい熱心に授業を受け、家でも自習をこなし、様々な本に読み耽った。家族は事情を知っているから心配してくれてたみたいだったけど、先生からは褒められるだけで、気付けば学内トップの成績を維持していた。
今なら弥子ちゃんが通う学校を受験しようと思えたかな・・・、と考えたとき、ふと自分の目的を忘れていることに気がついた。
事件に巻き込まれた私は、自分と同じような経験をする人が出てほしくないと思った。だから、弥子ちゃんたちを手伝っていた。その気持ちは今も変わってはいない。でも、もう弥子ちゃんやネウロさんからの連絡は無い。・・・だったら、自分で何かをしなくちゃ。
最近のやたらと頑張った勉強も無駄にしないよう、私が出した結論は・・・・・・・・・弁護士になること、だった。弁護士になれば、疑いをかけられた人の味方になれる。弁護士なんて、簡単になれるものじゃないけれど、だからこそ頑張る甲斐もあると思った。
こうして、今度は目標を持って頑張り始めた。それは私の気持ちの整理にも役立ったようで、気が付けば大々的にあの“シックス”が居なくなったという事件が報道されていた。
・・・きっと、弥子ちゃんも頑張ったんだ。そう思うと、また弥子ちゃんに会いたくなってきて、自分から事務所に訪れようと考えた。
でも、その前に・・・・・・。
「お久しぶりです、笹塚さん。」
私はお墓の前で手を合わせた。誰が供えたのか、線香の代わりに煙草が立ててあって、思わず笹塚さんらしいなと笑えるようになった。
そう私は、もう元気になったんですよ。それを誰よりも先に、笹塚さんに伝えたかったんだ。
「私、弁護士になろうと思うんです。これで、間違って疑いをかけられた人も助けられるかもしれないですし・・・。でも、やっぱり勉強は難しいです。・・・笹塚さんに少し手伝ってもらえたら、よかったかもしれないですね。」
笹塚さんは学生時代、成績も良かったと聞いたことがあるから・・・。そんなことを考えて、笹塚さんの姿を思い出すと、また涙が出てきてしまった。
「あ、すみません・・・。元気な姿を見せに来たはずなのに・・・。でも、大丈夫です。本当に今は元気なんです。・・・・・・・・・でも、少しだけ・・・。」
やっぱり、笹塚さんの前だと弱い自分も見せてしまう。それだけ笹塚さんは頼りになって・・・そして、私にとって、とても特別な存在なんだ。
「笹塚さん。私、笹塚さんに出会えて、本当に良かったです。これからも、大好きです。だから・・・できれば、たまには私の頑張る姿を見ていてくださいね!」
最後は涙を拭い、笑顔で言い切った。・・・そして、お墓から離れ、その足で弥子ちゃんの事務所へ向かった。でも、事務所に着く前に、弥子ちゃんらしき後ろ姿を見つけ、急いで駆け寄った。・・・きっと、弥子ちゃんもお墓参りに来てたんだろう。
「弥子ちゃん!」
「?!・・・ちゃん!!久しぶり、元気だった?」
「うん!弥子ちゃんも元気?」
「私は平気だけど・・・。」
「私も大丈夫だよ。」
弥子ちゃんも笹塚さんには特別な思いがあっただろうけど、それ以上に好きだという感情を抱いてしまっている私は、もっとつらいものだと思ってくれたらしく、弥子ちゃんはそう気遣ってくれた。
でも、本当に大丈夫。だから、私は思い切り笑顔で答えた。
それを見て、弥子ちゃんもほっとした表情をしてくれた。
「・・・私ね、この前のシックスの事件に関わっていたんだけど、――。」
そして、弥子ちゃんは、この間にあった出来事をざっと話してくれた。
・・・やっぱり、シックスの事件解決には弥子ちゃんとネウロさんの力があったんだと思いながら聞いていたけど、それだけじゃなかった。
「そんないろんな経験をして思ったんだけど・・・。アレはちゃんに対しての『ありがとう』でもあったんだと思う。」
「アレ・・・って??」
「あ、いや。何でもないの。ゴメン。・・・ただ、笹塚さん、最期は笑顔だったの。」
「そうだったんだ・・・。」
「うん。だから・・・、きっとちゃんに会えてよかった、って思ってるよ。」
「私も笹塚さんに出会えてよかった。」
「私も。」
「それから、弥子ちゃんやネウロさんたちにもね!」
「そうだね!・・・それじゃ、私、ネウロが心配だから、事務所に戻るね!」
「うん、わかった。いろいろと話聞かせてくれてありがとう。また、ネウロさんのこととか、連絡してね!」
「了解。それじゃね!」
「またねー!」
それから、ネウロさんは一度魔界に戻られ、弥子ちゃんは海外へ旅をしに行った。
その後、探偵(と言うか、交渉人?)の弥子ちゃんが説得して、捕まった人たちの弁護も私がするようになるのは、まだずっと先の話。
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まず、お詫びをさせていただきます。最初の文章は、第181話時のジャンプでの煽り文句(?)をそのまま引用させていただきました。この文章は、まさに笹塚さんらしさが表現されていて、私はすごく気に入ったのです。なので、良くないこととは思いながらも、私の作品で使わせていただきました。
この所為で皆様の気分を害した等、何か問題がありましたら、すぐに削除いたしますので、遠慮なく御連絡ください。
さて、久しぶりの笹塚夢です。これは、先述の第181話を読んだときに、気持ちを落ち着かせてから書き始め、『ネウロ』の最終巻が発売された後に完成させようと考えていたものです。気付けば、笹塚さんとの絡みが全くありませんが・・・(苦笑)。
とにかく、漫画の話とは言え、笹塚さんが亡くなったことは非常につらく、また『ネウロ』の連載終了もとても悲しいものでした。しかし、笹塚さん、そして『ネウロ』という作品に出会えて良かった、という気持ちから作成いたしました。
皆様に出会えたこと、さらにはこのような作品にお付き合いくださったことにも感謝しております!
('09/08/26)